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吉川英治「新・平家物語」2

新・平家物語は長過ぎます。

朝日新聞社版、全24巻。講談社版、全16巻。私がこれまで読んだ中で一番長い小説です。

私はKindleで読んだのですが、Kindleでは、今何パーセント読んだかが表示されます。
その数字が、読めども読めども上がらないのです。うんざりしながら意地になって読みました。「新・平家物語を読んでいる」と、昨年11月このブログで書いていますから、10月には読み始めたと思います。途中1ケ月強はNPOの仕事をしましたので、この小説を読み終えるのに正味2ケ月弱かかりました。作者の創作と思われる部分は斜め読みし、読み終えることを一心に念じて(宗教じみています)、やっと終わりました。

 

さて内容です。

話は、清盛が少年のころから始まって、保元平治の乱での朝廷の変様と武力の台頭、清盛の最盛期、源氏の蜂起、清盛の死、義仲や義経の活躍=平氏の滅亡、一時期歴史の主役を演じた、義仲、義経や後白河の動向と最期、遂には頼朝の死まで、事細かく書かれています。

ただし、朝廷内での権力闘争や文芸的な話題は殆どなく、朝廷(天皇家、公卿)や寺社と武士達の確執、源平の争いが話の大半を占めています。

吉川英治はどうでもいいこと(私からすれば)を書いてはいますが、歴史を曲げてまで書いてはいませんので、事件の顛末をかなり正確に知ることができます。

ですから、これまでなんとなく知っていたことが、「ああ、そういうことか」と明確になることが沢山ありました。

アマゾンの書評で、「まず歴史を勉強してから、この小説を読むべきだ」というものがありましたが、私は逆で、小説を読んでから歴史書で確認する方が、歴史は素早く理解できると思います。

なぜなら、歴史書で一度読んだくらいでは、人の名前を覚えられませんが、小説ではメインの人物は頻繁に登場し、イメージができますから、その後で歴史書を読めば、小説のイメージと合わせながら歴史を理解できます。

それにしても、「新・平家物語」は長い。

 

平家物語の出だしで「驕れるものも久しからず」といっていますが、清盛が人格的に驕っていたと断定するのは早い。

平家が公卿に対して軍事的に圧倒し、平家に都合がいいように改革を進めれば、旧勢力からすれば「驕っている」と思うのは当然のことですので、「驕れる平氏」という見方は一面的過ぎると思います。

さて、平治の乱(1160年)で壊滅的人的損害を出した源氏は、それぞれがひっそりと東海・北陸・関東で力をためています。

一方、先に書きましたように、京で平氏が勢力を示すと、皇室・公卿とさらには延暦寺や園城寺や奈良の寺社と衝突が頻発します。

これに対して、平氏は当然武力で鎮圧しますから、軋轢は益々深刻になっていきます。

平治の乱から20年後の1180年、平氏に我慢できなくなった後白河法皇の第三皇子・以仁王(もちひとおう)は、平氏打倒の計画を立てますが、発覚。

追捕を恐れた以仁王は園城寺に逃れます。当然平氏は園城寺に彼らの引き渡しを求めますが、園城寺は応じません。

このとき、以仁王の支持に立ち上がったのは、源氏でありながら平氏に取り入って、源氏の中で唯一清盛に厚遇されていた源頼政。

危険を感じた以仁王、頼政は園城寺を脱出し、奈良に向かいますが、平等院あたりで平氏に追いつかれ、自害あるいは討ち死にします(同年6月)。

これを期に平家と園城寺の関係が悪化、清盛から総大将を命じられた五男・重衡は、あろうことか園城寺に火を放ちます(同年12月)。

当時、大寺院同志は必ずしも仲が良くなかったのですが、藤原家の菩提寺・興福寺は園城寺に同調。

今度は平氏は興福寺に圧力をかけます。

清盛は平和的にことを済まそうとしますが、前線が決定的な衝突を起こし、重衡は東大寺等奈良の寺々を焼き払います(1181年1月、南都焼討)。

奈良の寺社は激しく怒り、いつまでもこのことを恨み、後に重衡が頼朝に逮捕されたとき、奈良の僧侶は重衡をもらい受け、奈良に連行する途中で斬殺します。

 

ここで、僧侶について一つ理解しなければいけないことがあります。平安の寺院には、仏教の教えを極めようとするいわゆる僧侶とは違う、日常的には雑用をこなす人たちがいたということです。

彼らはある意味、仏の教えとは縁遠い存在で、京の都や各地で食いあぐねた荒くれが大寺院に住み着き、寺社および寺社が所持する荘園を守っていた(=武力集団)のです。

寺社に不満がたまると、度々彼らは神輿を担ぎ武器をもって、京を練り歩き朝廷に要求をのませていました。

清盛が若いころ、祇園社(八坂神社)の強訴に対して神輿に矢を射て、僧侶に屈しない態度を示した話は、この本にも出てきますし、映画等でも出てきます(絵になりますから)。

ところで、河口慧海の[チベット旅行記]でも、チベット寺社に所属する武力集団の話が出てきます。とても具体的な説明だったので、「そうなんだ」と納得しました。