江口圭一「十五年戦争小史」2

この本を読んで思うのは「流れ」の怖さです。満州事変(1931年)では軍中央は、関東軍の突出した行動をいさめていたのに、結果「悪くない」とみるや、軍・政府は関東軍の行動を容認し、さらには日中戦争では逆に軍・政府が先頭にたって衝突を仕掛けていきます。

5.15事件(1932年)や2.26事件(1936年)が、国内の慎重勢力を委縮させ、軍国主義に口出しできない状況を作っていきます。最早、「流れ」を止めることができません。

左翼知識人は投獄され、新聞はこぞって日本の行動を煽り、日本国民全体が戦争肯定になります。

日本は、自分の力も敵の力も冷静に分析せず、いやむしろ事実を認識するのを恐れるように、狂気のなかで中国や東南アジアの人々を殺害し、 多くの若者を死ぬために戦地に送り出し、庶民を死に追いやっていきます。

終戦後、戦争の反省として様々な考えがあります。

その一つ、「日本が攻撃しなければ戦争は起こらない」という主張は、ノー天気な楽観主義・理想主義にすぎると思います。

とすると、日本のある程度の軍備を容認することになりますが、それを肯定するからには、私たちは日本が軍国主義にならないように、真剣に考えなければいけません。

まず、武力の独断専行が起きない政治システムを作っておかなければいけないし、そのような芽がでないように、私たちは政治に関心を持って自分の意見を表明しなければいけません。

スイスのような永久中立国は理想だと思いますが、日本では難しいのでしょうか。

日本が中立を宣言するということは、アメリカとの同盟も解除することになりますから、防衛も自力でやらなければいけません。スイスの人口は700万人で、日本は人口でも国土でも領海でも大きな国ですから、スイスと同程度の軍事力を持つとすれば大変なことになります。

産業面では、スイスは金融や製薬、精密機械等いわば小ぶりの産業が多いようですが、日本は重工業やあらゆる産業で国際的に激しく競っている国なので、単純にスイスの真似は出来ないのだろうと思います。

戦争を起こさないようにする最も重要な要件の一つは、日本が国際的に孤立しないことだと思います。先の戦争で日本は国際的に孤立していました。当時、世界は西欧帝国主義列強と、植民地化された国々だけという中で、日本が孤立化していったことはやむを得なかったのだと理解していますが、今、世界は変わりましので、日本が孤立しないようにすることは何倍も容易になっています。

日本が孤立しないためには、たくさんの国と友好関係を保つことが重要で、友好を守るために最小限の、他国への軍事協力も必要だと思います。

世界の微妙なパワーバランスにかかわっていくのは大変難しいことだし、その分したたかさが必要です。

十分時間と経験のある老人は、よく勉強して、 次の世代に進むべき方向への足しになる知恵を提示するのは重要な役割だと思います。

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