仏教

私は人生の中でただ一人祖母の死に目に会いました。

随分昔のことです。
それは私が経済的事情で一度は大学受験を諦め、その後兄弟の支援で大学受験ができることになって、懸命に勉強していた年の夏だったと思います。

祖母が大分弱ってきたとき、私をそばに呼んで「えろう(偉ろう)なれよ」といった言葉を、未だに覚えています。

私は今祖母が亡くなった歳より長生きをしていますが、祖母の願いに沿えたかどうかわかりません。

祖母は明治生まれで、若くして配偶者をなくし、現代人が想像もできない程の苦労をした筈ですが、苦労をものともせず、戦争の世紀を強く気高く生きた人だと思います。

その分彼女は、心の拠り所を仏教(禅宗)に求め、深く帰依したのでしょうか。無学文盲でしたが(カナは知っていたのでしょう)、驚くほどたくさんお経を知っていて、法事があると僧侶と合わせて、よくお経を唱えていました。

祖母の部屋の北の壁には、作り付けの大きな神棚と仏壇が並んでいて、祖母は毎朝仏壇に向かって多分30分程度だったでしょう、木魚を叩きながらお経をあげていました。

神棚や仏壇には、小さな食器にご飯を供えるのですが、お経をあげる間に、少し冷たくなって線香のにおいが移ったご飯は、何か清々しい味がして、兄弟で争って食べたものです。

私が中学生の頃、夜眠れない時期があって、色々やってもどうしても眠れないときは、暗い中で祖母の部屋に忍び込んで、「ばあちゃん、眠れんのじゃ」というと、祖母は眠ったまま、小さい声でお経をあげてくれました。そしていつも、私はいつの間にか眠りに就いていました。

 

ところで今私は、
「君の宗教は?」と聞かれたら、「私は無信心者です」という他ありません。

祖母はあれほど信心深かったのに、私は何も知りません。

仏教を信じる信じないはともかく、仏教を何も知らないのも、情けないと思いって、以前買って、途中で放り投げた本を、また読み始めました。

そして、「こういうことなのか」とたくさんのことを知ることができました。

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