河口慧海「チベット旅行記」2

慧海は1900年(明治33年)7月にネパールからチベットに入り、翌年3月チベット法王庁の首都ラサに到着します。

チベットといえば崖の上にそそり立つ宮殿の写真をよくみます。慧海も法王の宮殿をみて感激しています。

ラサは流石に仏教国の首都らしく、沢山の寺院や学校、沢山の僧侶がいます。

慧海は多くのページを使ってチベット人とりわけ僧侶達の生活や、チベット人気質、結婚式や葬式の習慣、刑罰や出会った出来事について書いています。

さて、慧海は旅の途中で強盗にあい、一時無一文になりましたが、頼まれるともなく人々に説教をしますと、多くの人が感じ入って沢山のお布施をくれます。結局ラサについたときには、相当のお金を所持していました。

慧海は大学に入りますが、ここで問題が起こります。

彼はインドにいたときは日本人として生活し、チベットに侵入しようと、ネパールに入ったときからシナ人で通してきました。

ラサでは日本人としても、またシナ人としても都合が悪いことになります。

ラサの大学ではシナ人はシナ人専用の僧舎に入らなければいけません。
しかし慧海はシナ語が達者でなく、シナ人の僧舎に入れば、自分がシナ人でないことがばれてしまいます。

結局ラサでは、チベット人として通しますが、これも大変に緊張した生活になります。

大学に入ろうとしたとき、旅の途中で知り合ったチベット人の縁者に遭遇します。
そこで「あなたはシナ人だときいているが、もしそうならシナ人の僧舎にはいらなければいけない」といわれます。
慧海は「確かにシナ人だが、シナ人の僧舎に入れば費用がかかって、それが払えない」のようの理屈をこねてなんとか言い逃れます。

さて、 チベットには大きくわけて二種類の僧侶がいます。
一つは修学僧侶ともう一つは壮士僧侶です。

修学僧侶は仏教を勉強しているのですが、一方の壮士坊主は僧侶とは名ばかりで、ようは寺の雑役夫です。

壮士坊主は教養もなく、乱暴ものです。
頻繁に喧嘩をし、決闘をします。
しかし性格的には慧海は壮士坊主に親近感をもっていたようです。

あるとき子供が喧嘩して、一人が腕を脱臼します。チベットでは脱臼の治療法がなく、脱臼すると一生障害者になります。

たまたまその現場に通りかかり慧海は、泣き悲しんでいる親子(小僧と師匠)から事情を聞き、外れた骨を元にもどしてやります。チベット人はとても驚き、慧海はただものではないことになります。

それを機に沢山の人、喧嘩した壮士坊主等もやってきます。
断っても、次々にどうしても診てくれと病人がやってきますすので、やむをえず、漢方の知識が多少あったので、シナ人の薬局に行ってそれらしい薬草を買って病人に与えたりします。チベット人は慧海のことを、すごい医者だと信じていますから、病が次々に治ります。

慧海には仏教を勉強する時間もいるし、第一医者としての自信もないので、断りますが、断れば断るほど、患者がやってきます。それにこれで金をもうけるつもりはないので、貧乏人からは金をとりません。これもまた、評判になり地方にまで名声が広がり、何日もかけて病人がやってきます。

ついには法王に召されることになります。法王からは「ラサにとどまって、医者として人々を治療してくれ」と声をかけられます。

法王はダライ・ラマ13世で当時およそ30歳程度だったようです。慧海は法王は鋭い政治感覚を持っている人だと判断しています。

侍従長から侍従医になるように勧められますが、「自分は仏教の道を進む身だ」と固辞します。

あるとき高貴な尼僧に頼まれ病気の診断をします。リュウマチと胃病を抱えていましたので、薬を処方しましたとこら、病気が改善しました。

この人は実は前大蔵大臣の妻でした。それがきっかけで、慧海は前大蔵大臣の屋敷で生活するようになります。

当時のチベットは日本の風習とは相当に異なります。僧侶が結婚することも珍しくないのです。

当時のチベットの婚姻は多夫一妻制です。
結婚は親が決め、長男が嫁をもらいますが、
長男に兄弟があればその弟達とも結婚します。

前大蔵大臣も僧侶であり妻も尼僧で、当時の日本の僧侶からすれば考えられない話です。

昔々、チベットは人肉を食べる国でした。およそ1300年も前に王様がシナの姫を迎えるとき、シナの皇帝が「チベットが仏教を取り入れ、これまでの習慣を改める」ことを条件にしたことから、インド仏教がシナを通してチベットに伝わったということです。

最初にチベットで信仰されたのは、旧教といわれています。それによると「酒を飲み肉を喰い、女色を愛しつつ禅定(ぜんじょう)を修めれば、直ちに即身成仏(じょうぶつ)することが出来る」と説くものです。

あまりの仏教の腐敗に対して、戒律こそ重要であると説く新教が勢力を持ちますが、慧海からすれば、チベット仏教は堕落しています。

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