江口圭一「十五年戦争小史」

大東亜戦争の真実を自分なりに理解するには、本を一冊読んで片付けられるようなものではありません。

中国や東南アジアの国々で激しい戦いがあったのは事実だが、語られる情報をどのように整理し、どのように自分なりに総括をするのか容易ではありません。

先の戦争について、ある 本は自虐的に語り、ある本は逆に日本を美化して語ります。本当はどうだったのか多くの著作を読んで、できるだけ正確に情報を入手しなければいけません。

江口圭一「十五年戦争小史」(1991年、青木書店)を読みました。十五年戦争とは、1931年の満州事変から日中戦争、大東亜戦争、そして終戦(1945年8月)までの15年間の日本の戦争です。

この本は筆者が大学で行った講義録をまとめたもので、全24講からなっています。最初に感想をいいますと、「何か物足りない」感じがします。講義録だということですが、本として出版するならもっと推敲するべきだと思います。

議論の余地のある問題も、おおむねあっさりと書いています。たとえば、天皇の戦争責任、慰安婦強制問題、中国の人的被害等です。これらは色々議論のあるところですから、論拠を明確にすべきです。

前回ご紹介した吉本貞昭[日本とアジアの大東亜戦争]もこの本も、どちらも嘘偽りを書いてはいないのでしょうが、読後の印象は真反対です。吉本は日本を美化し、江口は自虐的です。

要は、自分がいいたことを余計に述べているのです。吉本は、江口は語らない、しかし自分の都合のいい部分を、逆に江口は、吉本は語らない、しかし自分の都合のいい部分を書いています。

さて、「十五年戦争小史」の内容です。江口は時代を簡潔に述べています。

日本は、その固有の領土以外に、日清戦争(1894~95年)により台湾・澎湖諸島を、日露戦争(1904~05年)により遼東半島先端部(関東州)とサハリン南半分(南樺太)と、韓国併合(1910年)により朝鮮を、また第一次世界大戦により南洋諸島を領土ないし事実上の領土として保有していた。

また日本は、中国東北地方の南部いわゆる南満州に関東州・南満州鉄道・関東軍を基軸とする満蒙特殊権益を設定し、同地方を勢力範囲に収めていたのをはじめ、中国で治外法権と租界をもち、陸海軍を配置するなど、列強とともに全中国を半植民地的に支配していた。

満州は日本にとっては、地下資源の供給源であり、ソ連の南下を防ぐ防衛線として重要な地点だった。日本本土からの入植を積極的に進め、同時に日本の権益を守るという名目で関東軍を配置していました。

この地には国民党軍の他、軍属が跋扈していて、日本軍としばしば小競り合いをしていました。

この地の大軍閥・張作霖は最初親日でしたが、 やがて排日に転じるに及んで、関東軍は張作霖が乗った列車を奉天の近郊で爆破し殺害します(1928年6月、張作霖殺害には異論があります)。

排日運動は益々激しくなり、関東軍は更に高圧的に軍事行動をします。1931年9月奉天の北・柳条湖で爆発事件が発生、これは関東軍が仕掛けた挑発ですが、これを根拠に日本軍は奉天城を攻撃し、ここを占拠します。

当時、軍中央は軍事行動に慎重な態度をとっていて、関東軍に自重をもとめていたのですが、関東軍はそれを無視して 次々に口実を設けて全満州に侵攻します。満州事変の勃発です。

当時、世界経済は大不況に突入し、不安定は国際情勢に陥っていました。国際社会からの日本への圧力、日本政府の煮え切らない態度に対して、青年将校はクーデターを起こします(1932年 5.15、 1936年 2.26)。

この時代は、世界的には経済的に不安定になり、関東軍は中国での軍事力を拡大し、国内的には軍国主義が着々と力を増していった、陰鬱な時代だったのだと想像します。

満州事変で日本は列強から批判されますが、日本は強引に武力行使を続け、国際連盟が派遣したリットン調査団は、日本の非を認めた報告書を提出し、これをめぐって、遂に日本は国際連盟を脱退します。

中国では当初、日本に歩調を合わせていた南京政府・蒋介石の国民軍と、毛沢東の共産党は手を組み(西安事件、1936年)、協力して日本に対抗します。

満州から長城を超えて南下して北京の郊外盧溝橋に集結していた日本軍に発砲があり、これをめぐって日本と中国が対立します(1937年、盧溝橋事件)。そしてずるずると日中戦争の深みに入っていきます。

日中戦争が長引くにつれて、戦争に必要な物資が不足してきました。日本は物資をイギリス・アメリカからの輸入に頼っていましたが、イギリス・アメリカは日本への輸出を禁止すると、戦争物資の調達のため、東南アジアを確保する必要に迫られます。

日本の戦争はアジアモンロー主義を唱える一方で、常に英米に物資を頼るという冷静に考えればあり得ない構造をもっていたのに、日本は一途にアメリカとの良好な通商を期待し、結局それが絶望だと認識したとき、真珠湾攻撃をしかけ欧米との全面戦に突入します。

初戦は、中国南西部、仏領インドシナ、マレー半島、フィリッピン、太平洋の島々等華々しい戦果をあげますが、やがて、武器弾薬の乏しい日本軍は次々に敗戦を強いられます。

日本軍はハワイの西ミッドウェー海戦で大敗し、それを期に各地の制空権、制海権を米軍に奪われ、戦死者よりも多くの餓死者をだし、玉砕戦へと続きます。

この本では、戦争の経過とは別に、天皇、軍・政府の動き、 大東亜共栄圏の実際、中国戦での戦争の実態、チャーチル、ルーズベルト、スターリンによる日本の戦後処理の動き、ルーズベルトの急死で登場したトルーマンとスターリンの駆け引き等を書いています。

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