「朝鮮紀行」総括

イザベラ・バードは日清戦争終結の2年後1897年11月、たくさんのページを使って朝鮮の政治事情を総括しています。

 

まず当時の腐敗しきった朝鮮の体制では、自力での独立はあり得ないといい、更に、独立後もいずれかの国の保護を受けなければならないだろうといっています。

当時の駐朝イギリス総領事ヒリアーもこの本の序文で、「日本の武力によってもたらされた名目上の独立も朝鮮には使いこなせない特権で、絶望的に腐敗しきった行政という重荷にあえぎつづけている」と語っています。

しかしそれでも朝鮮は変わっていくであろうと、バードは次のようにいいます。

「ひとつ確実に言えるのは、戦争と日本の支配期が朝鮮全土にあまりに唐突な動揺をあたえ、またそれまで年代を経たものとしてあがめられてきたさまざまな慣習や制度の信用を徹底的に失墜させてしまった以上、たとえ1897年に、ある程度みられたような時代逆行の動きがあったとしても、朝鮮を昔の型にはめもどすのはもう不可能だということである」

なぜなら、庶民に公平で正当な権利を目覚めさせた。

「宗主国中国の影響のもとに、朝鮮の両班たちは貴族社会の全体的風潮である搾取と暴政をこれまで事実上ほしいままにしてきた。この点について日本は正しい理論を導入し、庶民にも権利はあり、各階層はそれを尊ばなければならないということを一般大衆に理解させ…」

日本の様々な改革:

「この3年間にあった朝鮮に有益な変化のうち重要性の高いものをまとめると、つぎのようになる。
清との関係が終結し、日清戦争における日本の勝利とともに、中国の軍事力は無敵であるという朝鮮の思い込みが打破され、本質的に腐敗していたふたつの政治体制の同盟関係が断ち切られた。貴族と平民との区別が少なくとも書類上は廃止され、奴隷制度や庶子を高官の地位に就けなくしていた差別もなくなった。残忍な処罰や拷問は廃止され、使いやすい貨幣が穴あき銭にとってかわり、改善をくわえた教育制度が開始された。訓練をうけた軍隊と警察が創設され、科挙はもはや官僚登用にふさわしい試験ではなくなり、司法に若干の改革が行われた。済物浦から首都にいたる鉄道施設が急ピッチですすめられており、商業ギルドの圧力はゆるめられ、郵便制度が効率よく機能して郵便に対する信頼は各地方に広がった。国家財政は健全な状態に建て直され、地租をこれまでの物納から土地の評価額に従って金納する方式に変えたことにより、官僚による「搾取」が大幅に減った。広範かつ入念な費用削減が都市および地方行政府の大半で実施された」

日本の政治的スタンス:

「わたしは日本が徹頭徹尾誠意をもって奮闘したと信じる。経験が未熟で、往々にして荒っぽく、臨機応変の才に欠けたため買わなくてもいい反感を買ってしまったとはいえ、日本は朝鮮を隷属させる意図はさらさらなく、朝鮮の保護者としての、自立の保証人としての役割を果たそうとしたのだと信じる」(後段の文章の正否の判断は保留しましょう)

「三浦子爵主謀による朝鮮王妃暗殺とその行為が朝鮮全土にひきおこした動揺は、日本に失墜しかねない自国の権威を守るため、あらしがおさまるまで雲隠れするとという方策をとらせた。この一時的退避はきわめて巧みに行われた。ことあらだった移動はいっさいなかった。撤収すべき駐屯隊は静かにひきあげられ、日本公使館、電信などの日本の所有物をまもるのに充分なだけの守備隊がそれにとってかわった。…中略…
しかしこのことから日本は利権要求をあきらめたのだとか、朝鮮の安寧に不可欠な保護を行う決意をひるがえしたのだとか推測しては、大きな間違いである」

日本とロシアの関係について:
「日本が朝鮮で失ったものはそっくりロシアが手にいれたとこれまで言われてきた」

そしてイギリスも関心を示さない朝鮮では、ますますロシアが台頭するであろうが、ロシアが「朝鮮にかんしてなんらかの積極的な意図を明示するつもりがあるとすれば、日本はその車輪にブレーキを掛けるくらいの力は充分備わっている」
と日露の衝突を予感しています。(それから、5年余り後に日露戦争が勃発します)

次のような文章でこの本を締めくくります。

「朝鮮の運命をめぐってロシアと日本が対峙したままの状態で本稿をとじるのはじつに残念である」

そして、「わたしが朝鮮に対して最初にいだいた嫌悪の気持ちは、ほとんど愛情にちかい関心へと変わってしまった」

イザベラ・バードは被支配階級への同情と心からのエールを送っています。

 

この本は何十年も後で、資料をもとにして書いたものではなく、歴史の真っただ中で書いたものです。

書いたのは日本人でも朝鮮人でも中国人でもない、英国人であること。当時の英国の立場を反映していると思いますが、中立的客観的視点という意味では、最適な人物であったと思います。それだけにこの本は日韓問題の原点にすえる価値があると思います。

韓国の要求に対して、日本がただただ謝罪するだけの話ではない。単純に「だから朝鮮が…」とか「だから日本が…」という話ではない。日本人も韓国人もすべての人がこの本を読んで、正しく議論すべきだと思います。

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