小熊英二・姜尚中編集「在日一世の記憶」

私は政治家ではないし、朝鮮問題の研究者でもありませんので、自分が納得するだけの勉強をして韓国論を卒業したいと思います。

今回私はおよそ30冊の韓国論の本を読み、事の本質は理解したつもりですが、それにしても何か片手落ちのような気がしていました。それは生身の[在日]の人たちの実際はどうだったのかということです。

小熊英二・姜尚中編集「在日一世の記憶」(集英社新書 2008年)を読みました。1910年(明治34年、日韓併合の年)頃から1930年代に生まれ、日本と深くかかわった52人の在日の回顧録です。

この時期、特に先の大戦が始まってからは、狂気の中で、日本人は死を賭して貧しく苦しい時代を生きましたが、朝鮮人もまた過酷な人生を歩んできたことがよくわかります。ここで語られている人生はどれも、小説や映画になるような激動の人生です。

とはいえ、これらの人々はまだ恵まれた人たちかもしれません。多くはキリスト教の伝道師になったり、総連等の役員になったり、それなりの人生に光を観た人たちといえるでしょう。

大多数の朝鮮人は、これほどにしたたかに生きられないままに歴史に消えていったのでしょう。

この本を読んでつくづく思うのは国の為政者の責任です。韓国で言えば朝鮮王朝の無能さ愚劣さと、一方の日本の軍国主義の暴走です。

北朝鮮の現在の政治体制は、李氏朝鮮と同じことだとは多くの本が指摘していますし、私も「そうなのだろう」と思います。

しかし、今になってそのように指摘することは簡単なことですが、世界の激動のなかでまた国の強権体制のなかで、それに異を唱えることは容易なことではありません。

この本で語られていることがすべて事実であったかどうか、検証が必要かもしれません。「日本人が朝鮮人の農地を奪ったので、やむを得ず朝鮮人は日本や満州に移住した」のような話がありますが、私が読んだ本では別の見方をしています。[在日一世]もこの時期幼少だったでしょうし、自身の経験というより親から聞いたことでしょうから、思い違いがあるかもしれません。

彼らの回顧録には間違いや誤解があるかもしれませんが、彼らがそう思ってきたことは事実でしょうし、過酷な人生を強いられたことも事実でしょう。

今回読んだ本の中で、イザベラ・バードの「朝鮮紀行」と「在日一世の記憶」に最もリアリティを感じます。イザベラの記述も大英国帝国の知識人としてのフィルターを通した認識ですし、[在日一世]も生身の彼らが感じたことからの認識です。それぞれの立場からの認識ですが、自身の経験の吐露であり、その限りでは事実です。

国のあり方についての議論と、庶民が受けた苦労は別次元での議論が必要だと思います。

[在日]との関係では、庶民レベルでの相互理解が何よりも重要だと思います。彼らは日本で生きていくのであれば、この本で語られているように、それぞれの思いや経験を冷静に発言し、日本人は彼らへの同情と思いやりを寄せ理解しあったうえで、半島出身者は朝鮮・韓国系日本人として、日本のために生きていくしかないのではないでしょうか。(もちろん日本人としての義務や覚悟も求められます)日本国籍をいつまでも取らないでいては、問題は解決しないと思います。

アメリカの日本人が大戦中は、アメリカのために戦い、日系アメリカ人として生きているようになるしか、平穏な関係は作れないと思います。

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