ジョン・ダワー「容赦なき戦争」

私は常々「国家心理学」という研究があればいいと思っています。

国の重大な行動(たとえば開戦)はどのように決まっていくのだろうという問題です。国を動かす心理はどのように醸成されていくのか、非常に興味があります。

ヒトラーのように強力なリーダーが国を動かすこともあるでしょうし、特定の個人でなくムード的に集団心理が一方に集中し、その結果そのように行動に移っていくというケースもあるでしょう。どちらにしても、結局国はある方向に動いていきます。

関連ある学問は社会学とか社会心理学だと思いますが、これらは国レベルではなく小さな社会についての研究だと思います。

文化人類学もこれに近い研究だと思いますが、これも私が知る限り原始社会についての考察に終わっていると思います。

アメリカの歴史学者ジョン・ダワーの「容赦なき戦争」(原著 1986年、平凡社 2001年)を読んでいます。全約500ページ程度で今半分くらいを読んだところです。

第二次世界大戦当時、日米双方の人種的偏見に基づく狂気について、当時巷に氾濫した情報に基づいて太平洋戦争を考察しています。下は本書の序文の一部です。

政策立案と戦闘状況の記述に焦点を合わせる代りに私は、敵と味方の両陣営に殺戮を心理的に容易にした、むき出しの感情と紋切り型の言葉とイメージを探求することを選んだ。

このことは学者たちが一般に頼りとする公式文書とはまったく違う「テキスト」、たとえばスローガン、歌、映画、漫画、それにありふれた慣用語句とキャッチフレーズを、私に吟味させることになった。

著者の意図するところは、明確に読み取れます。公式文書の解説とは異なり、生々しい敵味方の感情・心理が手に取るように見えてきます。これまで読んだところは、欧米特にアメリカにおける人々のものの考えかた、日本に対するイメージや言動が、どのように出現し、どのように浸透・拡散していったか書かれています。

第三部「日本人からみた戦争」はまだ読んでいませんが、そこに書かれているだろうことを予想して、次のように集約できると思います。

すなわち、ジンギスカンやオスマントルコ隆盛時代ならいざ知らず、大航海時代以降の白人は、白人こそが人間であり、他の有色人種は動物にも等しいと何の疑いもなく考えていた。

その考えの下では、アフリカ人を奴隷にすることも、アジアや全世界の国々をほしいままに植民地にしていくことも、白人=人間としては当然の行動であった。

その脈絡のなかで、日本と米国が険悪な状態になったとき、日本とアメリカのとった敵に対する態度は決定的に異なるものでした。

アメリカは、日本人を考えられる限り下等で下劣な動物に仕上げ、あらん限りの罵声を浴びせるのに対して、日本は、自分たち日本民族がいかに優秀であるかを考え出して自己陶酔しています。アメリカを悪くいうのはせいぜい「鬼畜米英」というくらいです。

すなわち、アメリカ人は攻撃的であり、日本人は自己防衛的自己満足的なのです。

アメリカは、日本人をゴキブリ、アリ、サルと考えられる限りの悪いイメージを作っていき、その嫌悪感を「そうだそうだ」と白人全員で共有していきます。

日本は天皇をいただく皇国と自国を美化し、あくまでも自己中心的です。

「劣等なサルをやっつけよう」と仲間を増やしていくアメリカと、あくまでも自己求心的な日本とでは、少なくとも前哨戦=プロパガンダ戦では勝負ありです。

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